東京地方裁判所 平成10年(ワ)13028号 判決 1999年3月31日
原告
株式会社アプラス
右代表者代表取締役
石合正和
右訴訟代理人弁護士
小川信明
同
友野喜一
同
鯉沼聡
同
高橋秀一
被告
原井繁典
右訴訟代理人弁護士
梅沢良雄
主文
一 原告の請求を棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第一 請求
被告は、原告に対し、三二〇万二四三七円及びこれに対する平成一〇年七月一七日から支払済みまで年六パーセントの割合による金銭を支払え。
第二 事案の概要
本件は、原告が、被告は、原告との間でいわゆる保証委託型クレジットの加盟店契約を締結していたところ、実際には被告以外の第三者が顧客に対して自動車を売却した契約について、被告が原告の加盟店として右顧客に売却する旨の契約書を作成するなどして、原告の提供する保証委託型クレジットを利用し、または、仮に、被告が右顧客に対して右自動車を売却したものであったとしても、怪しい人物を契約に介在させた上で売却し、右クレジットを利用したものであって、これらの被告の行為はいずれにせよ加盟店契約に違反するものであるとして、被告に対し、原告が、右契約書に基づいて、被告に対して販売促進費として支払った二七万〇九八〇円及び原告が三井生命保険相互会社に対して保証債務の履行として支払った二九三万一四五七円の合計三二〇万二四三七円の合計三二〇万二四三七円の損害及びこれに対する弁済期の経過後であり、訴状送達の日の翌日である平成一〇年七月一七日から支払済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。
一 争いのない事実
1 原告は、割賦購入あっせん等を業とする株式会社であり、被告は、「SKオートハライ」との屋号により、自動車販売等を業とする商人である(争いのない事実)。
2(一) 原告は、富士火災海上保険株式会社(以下「訴外会社」という。)との間で、平成二年一〇月一日、訴外会社が選定し、原告が承認した販売店の顧客に対し、原告が信用を供与することによって販売店が販売することを認めた場合において、販売店が顧客に対してFACEオートクレジット(以下「本クレジット」という。)の取扱いをすることについて、次の内容を含む協定を締結した(争いのない事実)。
(1) 販売店は、商品の代金の分割払を希望する顧客のうち、原告の信用調査を経て原告が承認した顧客に対し、当該商品を販売し、その顧客の代金債務を、原告が顧客の依頼に基づき、販売店に支払うものとする。
(2) 顧客が原告に対する返済を怠った場合、それが次の事由によるときは、販売店は、原告に対し、立替金を返還し、かつ原告が被った損害を賠償するものとする。
ア 販売店が、第三者から商品を購入した顧客のために、本クレジットを利用した場合
イ 販売店が、架空の商品売買のために、本クレジットを利用した場合
ウ その他、販売店において、原告の信頼関係を損なう行為をした場合
(二) 被告は、平成八年四月二六日、右(一)の協定を承認した上、右(一)の協定にいう販売店として、原告との間で右(一)の協定を内容とする加盟店契約を締結するとともに、原告に対し、被告が本クレジットを利用するに当たり、右(一)の協定を遵守する旨約した(争いのない事実)。
(三) 原告と被告は、平成八年四月二六日、次のような保証委託型クレジットを取引の内容に加えることについて合意し、保証委託型クレジットについても前記(一)の協定の規定を準用することとした(争いのない事実)。
(1) 顧客が販売店から購入した自動車等の商品の代金をクレジットを利用して支払うことを希望する場合、原告が顧客を代理して、原告と提携する生命保険会社から、顧客のために、分割返済の約定の下で金銭を借り入れ、その借入金を顧客に代わって代金として販売店に支払う。
(2) その際、原告は、顧客からの委託により、生命保険会社に対し、借入金債務について連帯保証する。
(3) 原告は、生命保険会社に代わって、顧客から分割返済金を受領し、返済が遅滞した場合にも、生命保険会社を代理して、顧客に対する催告や期限の利益の喪失のための手続をする。
(4) 原告と生命保険会社との間では、包括的な提携契約により、原告が販売店を通じて顧客のクレジットの利用の申込みについて審査をした上、販売店に対して、信用の供与を可とする通知をすることにより、顧客の借入金債務についての原告の生命保険会社に対する連帯保証契約が成立する。
3 被告は、株式会社伸幸(以下「伸幸」という。)を顧客として、伸幸の代表者である高橋光子(以下「光子」という。)から代理権の授与を受けた。伸幸の代理人であった高橋邦行(以下「邦行」という。)との間で、平成八年一〇月二三日、自動車一台(日産シーマ。以下「本件自動車」という。)を三四〇万円で販売することのほか、次の内容のクレジット契約書(甲三。以下「本件契約書」という。)を作成した(争いのない事実)。
(一) 伸幸は、原告に対し、原告と提携する三井生命保険相互会社(以下「三井生命」という。)から、後記(四)の売買代金及び分割手数料のうちの委託保証料五五万四一六二円を借り入れることを委託する。
(二) 伸幸は、原告に対し、伸幸が三井生命から右金銭を借り入れるに当たり、連帯保証を委託する。
(三) 伸幸は、原告に対し、後記(四)の売買代金を被告に支払うことを委託する。
(四) 伸幸は、原告に対し、売買代金三四〇万円に分割手数料(利息及び委託保証料)七七万八六〇〇円を加えた合計四一七万八六〇〇円を、平成八年一一月から平成一二年一〇月まで毎月二七日限り、八万七〇〇〇円(ただし、第一回目は八万九六〇〇円とする。)あて分割して支払う。
(五) 伸幸が、右(四)の分割払金の支払を遅滞したときは、原告は、伸幸に何らの通知又は催告をすることなく、連帯保証債務を履行することができる。
4 原告は、平成八年一〇月二三日、本件契約書の内容に沿って、伸幸のために代理して、三井生命から売買代金三四〇万円及び委託保証料五五万四一六二円の合計三九五万四一六二円を借り入れ、同月三〇日、被告に対し、売買代金三四〇万円のほか、販売促進費として二七万〇九八〇円を支払った(争いのない事実)。
5 伸幸は、原告に対し、平成九年一一月二七日までに合計一一三万三六〇〇円を支払ったが、その余の支払をしないため、原告は、平成九年一二月三一日までに、三井生命に対して、連帯保証債務の履行として、合計二九三万一四五七円を支払った(甲五)。
二 争点
1 本件自動車を伸幸に売却したのが被告ではないかどうか。仮に被告ではない場合に、被告が加盟店契約に違反したといえるかどうか。
(一) 原告の主張
(1) 本件自動車を伸幸に売却したのは、被告ではなく、長田善弘であって、このことは、次の事情から明らかである。
ア 邦行は、本件契約書を作成した当時、長田とは知り合いであったが、被告やその従業員とは全く面識はなかった。
イ 本件自動車の売買の話を邦行に持ちかけたのは、被告ではなく、長田であった。
ウ 邦行が本件自動車を受け取ったのは、被告からではなく、長田からであった。
エ 本件契約書は、長田の指示によって作成された。
オ 邦行は、本件自動車の売主は、長田であると考えていた。
(2) したがって、被告は、本件自動車を伸幸に売却したのは長田であったにもかかわらず、被告が伸幸に本件自動車を売却する旨の本件契約書を作成した上、本クレジットを利用したものであり、このような行為は、前記一2(三)で準用する前記一2(一)(2)ア又はイに該当する。
(二) 被告の主張
(1) 本件自動車を伸幸に売却したのは、被告である。長田は、被告の従業員であった石毛に対し、伸幸を顧客として紹介したに過ぎない。
前記(一)(1)の事実についていえば、同アについては、本件契約書を作成した時には、被告の従業員である石毛和仁が邦行と会っているが、それ以前に邦行が被告又はその従業員と面識がなかったことは認め、同イは認める。同ウは否認する。邦行に本件自動車を引き渡したのは、石毛である。同エ及びオも否認する。
(2) 前記(一)(2)は争う。
2 仮に、本件自動車を伸幸に売却したのが被告であった場合、被告が加盟店契約に違反したといえるかどうか。
(一) 原告の主張
(1) 仮に、本件自動車を伸幸に売却したのが被告であったとしても、本件においては、被告は、原告の信頼関係を損なう行為をしたものであって、このことは、次の事情から明らかである。
ア 被告は、長田という怪しい人物からの紹介を受けて、本件自動車を伸幸に対して売却した。
イ 一方、被告は、本件自動車の売主であるにもかかわらず、邦行又は光子に対し、被告と長田との関係や本件自動車の実質的所有者等、本件自動車の売買契約の当事者を示す重要な事項を説明しなかった。また、被告は、本件自動車の引渡しに当たっても、長田にこれを任せて顧みなかった。これらによって、被告は、邦行又は光子をして、本件自動車の売主が長田であると誤信させた。
ウ 邦行又は光子は、本件自動車の納車後、本件自動車の売主が長田であると信じたために、「本件自動車を欲しいという人がいるので、名義をそのままにしてその人に売り、月々の返済はその人が行う。」などという長田の言葉を信じて、長田の指示どおりに本件自動車を長田に渡し、返してもらっていない。
エ 被告は、被告の従業員ではない長田を被告の従業員に同行させて、伸幸との間で本件自動車の売買契約を締結させた。その他、自動車の売買契約における重要な事項を長田に任せて顧みなかった。
オ 長田は、その地位又は権限が明らかではない部外者であり、不信な行為をするおそれがある者として週刊誌にも取り上げられた者である。被告と長田が関連して、原告との間で本件と類似のトラブルになった案件が、本件以外にも一件ある。
(2) したがって、被告は、原告の信頼関係を損なう行為をしたものであって、これは、前記一3(三)で準用する前記一2(一)(2)ウに該当する。
(二) 被告の主張
(1) 被告が、原告の信頼関係を損なう行為をしたことは否認し、又は争う。
前記(一)(1)の事実についていえば、同アについては、被告が、長田からの紹介を受けて、本件自動車を伸幸に対して売却したことは認めるが、その余は否認し、又は争う。同イについては、被告が、邦行又は光子に対し、被告と長田との関係を説明していないことは認めるが、その余は否認し、又は争う。同ウは知らない。同エ及びオは否認し、又は争う。被告は、本件自動車の売買に関する事務を石毛に任せていたものであって、長田に任せたものではない。
(2) 前記(一)(2)は争う。
第三 争点に対する判断
一 争点1について
まず、証人邦行によれば、伸幸の代理人であった邦行は、本件自動車を売買するという話を長田から持ち込まれ、長田と交渉した上で本件自動車を購入することにし、本件契約書を長田又は被告の従業員である石毛との間で授受したことがそれぞれ認められる。しかし、甲三によれば、本件契約書には販売店名として被告の名称が明記されているほか、証人邦行によれば、邦行自身、本件自動車を売買した当時、本件自動車の所有者は長田ではないと思っていたこと、及び原告が、光子に対し、本件自動車の売買契約の内容について確認していることが認められ、これらの事実に照らすと、被告がどのようにして本件自動車の所有権を取得したのかは明らかではないものの、本件自動車の売主が長田であったことを認めることができないし、邦行において、本件自動車の売主が長田であると考えていたことも認めることはできない。なお、証人邦行は、邦行が本件契約書を作成した時には、本件契約書には販売店名として被告の名称は明記されていなかったと陳述するが、右陳述に係る書面は証拠として提出されておらず、右陳述のみによって、右陳述に係る事実を認めることはできない。また、証人邦行は、本件自動車を売買した当時、所有者は原告であると考えていたと陳述するが、原告が所有者となり得るのは、本件契約書に基づく契約が成立した後のことであるはずであって、右陳述は信用することができない。さらに、証人邦行は、本件自動車の引渡しについては、長田の父から千葉県佐倉市内で引渡しを受けたと陳述するが、甲四の内容と矛盾するものである上、石毛が邦行に引き渡したとの被告の主張に照らし、信用することはできない。
したがって、この点の原告の主張は理由がない。
二 争点2について
この点の原告の主張は必ずしも明らかではないものの、まず、被告が、長田からの紹介を受けて、本件自動車を伸幸に対して売却したことについては、当事者間に争いはない。しかしながら、長田が、その紹介を受けた客と売買契約を締結することが直ちに原告との信頼関係を損なうと評価することのできるような人物であることを認めるに足りる証拠はない。甲六は右のような事実を認めるのに足りるものではない。また、甲七によれば、原告と被告との間で、長田の関与という点を含めて、本件同種の訴訟が係属し、又は係属していたことが認められるが、右事実は、なお右認定を左右するに足りるものではない。
また、被告が、邦行又は光子に対し、被告と長田との関係や本件自動車の実質的所有者等を明示的に説明しなかったことについても当事者間に争いはない。しかしながら、前記一の認定判断を前提とすると、右事実をもって、被告が、邦行又は光子をして、本件自動車の売主を長田であると誤信させたものと認めることはできない。
一方、被告が、本件自動車の引渡しに当たって、長田にこれを任せたことを認めるに足りる証拠はないし、そもそも、長田が邦行に対して本件自動車を引き渡したことを認めるに足りる証拠もない。また、被告が、長田を被告の従業員に同行させて、伸幸との間で本件自動車の売買契約を締結させたことを認めるに足りる証拠はないし、その内容は明らかではないものの、原告が主張するような、被告が売買契約における重要な事項を長田に任せたことを認めるに足りる証拠もない。その他、被告が、邦行又は光子をして、本件自動車の売主が長田であると誤信させたことを認めるに足りる証拠はない。
なお、原告は、邦行又は光子は、本件自動車の納車後、本件自動車の売主が長田であると信じたために、「本件自動車を欲しいという人がいるので、名義をそのままにしてその人に売り、月々の返済はその人が行う。」などという長田の言葉を信じて、長田の指示どおりに本件自動車を長田に渡し、返してもらっていないと主張するが、仮に、右主張に係る事実が認められるとしても、このような事実が、原告と被告との間の信頼関係に影響を与えるものということはできない。
そうすると、この点についての原告の主張も理由がない。
三 よって、原告の請求には理由がないからこれを棄却することとし、主文のとおり判決する。
(裁判官・長野勝也)